証拠が無くても逮捕される?

痴漢の場合、被害者の証言が尊重されます。
「目撃者もなく何の証拠もないのに逮捕だなんて…。」と思われるかもしれませんが、被害者の証言が最も有力な証拠になるのです。
電車内の痴漢の場合は、次のような流れになることが多いでしょう。
- ①被害者が「痴漢です。」と声を上げて加害者の腕を掴む。
- ②同じ車内に乗り合わせた人が協力して取りおさえて駅員に引き渡す。
- ③駅員から警察に連絡がいき逮捕される(※)。
車内に乗り合わせた人も駅員も痴漢行為を目撃している訳ではありません。
証拠は被害者の証言のみです。
(※被害者や周囲の人が取り押さえた時点、駅員に身柄を引き渡した時点で私人による現行犯逮捕が成立する場合もあります。)
逮捕とは、犯罪を犯した疑いのある者の身柄を拘束して、逃亡や証拠隠滅を防止する為の強制処分です。
痴漢行為の場合には、裁判官の許可のいらない逮捕状なしの「現行犯逮捕」が行なわれます。
刑事訴訟法212条に現行犯についての定めがあります。
現行犯の定義は「現に犯罪を行ない、または現に犯罪を行ない終わった者」です。
それに加えて「犯人として追呼されている者」や「誰何されて逃走しようとする者」が、「罪を行ない終わってから間がないと明らかに認められるときには、これを現行犯とみなす」というみなし規定があります。
つまり「痴漢だ。」と声をかけられた者や、疑いをかけられて逃げようとした者は、痴漢の現行犯とみなして逮捕できるのです。
痴漢事件の場合、もっとも怖いのは人違いです。
加害者と思われる者が痴漢行為を否定している、他に目撃者はいない、人違いの可能性は多いにあります。
しかし人違いかどうか、本当に痴漢行為があったのかどうか、最終的な判断を下すのは法廷です。
逮捕という行為は、逃亡や証拠隠滅を防ぐ目的で行なわれる身柄拘束に過ぎません。
実際に取り調べを行ない、起訴か不起訴か、有罪か無罪かを決定するのは逮捕後の手続きなのです。
「痴漢に間違えられて逮捕される。」
例え後日疑いが晴れて釈放されたとしても、精神的なダメージは大きいです。
痴漢冤罪事件に巻き込まれない為には、常日頃から次のようなことに気をつけておくとよいでしょう。
- ①両手でつり革を持つ。
- ②できるだけ女性から離れた場所に立つ。
- ③ポケットに手を入れない。
- ④混雑する出入り口付近には立たない。
- ⑤毎日同じ車両に乗る。
もしも痴漢に間違われた場合には、被害者に「人違いかもしれない。」と気付いてもらうしかありません。
「証拠はあるのか。」と脅しては逆効果です。
毅然とした態度で被害者や周囲の人に「私ではない。」と告げましょう。
そして、駅長室に行く前に弁護士に連絡し、冤罪事件に巻き込まれた旨を相談するのが最善の策です。